レオナール・フジタの古寺巡礼 ―オルレアン近郊のロマネスク聖堂1―
【写真1】(2017.10.25撮影) サン=ジル・ド・モントワール・シュル・ル・ロワール礼拝堂 La chapelle Saint-Gilles de Montoire–sur–le-Loir(11世紀末) 「平和の聖母礼拝堂」建立に際し 藤田嗣治(レオナール・フジタ)(1886~1968)は、最晩年の1966年に「平和の聖母礼拝堂(その後フジタ礼拝堂と改名)」をフランスの古都ランスに建立した。これは、ネオ・ロマネスク様式の三つ葉型ラテン十字の小さな石造礼拝堂である。内部の壁面全体には、フレスコ画で聖母子やキリスト伝が描かれている。その他、中世風のステンドグラス、板絵、浅浮き彫り彫刻等で装飾された瀟洒な礼拝堂である。 建設に先立ってフジタは、友人の田淵安一(1921-2009)の進言によって1964年7月15日、オルレアン近郊にあるロマネスク聖堂を訪問した。田淵安一は抽象表現主義の画家だが、学者肌で中世美術に詳かった。年齢や画風の隔たりを越えて親交を深め、フジタの礼拝堂建設の夢を良く理解し、協力した人物だ。フジタ達が訪問したロマネスク聖堂は、サン=ジャック・ド・ゲレ聖堂、サン=ジル・ド・モントワール礼拝堂、サン=ジュネ・ド・ラヴァルダン聖堂、ノートルダム・ダレイン聖堂等である。 本コラムでは、その中で最もフジタの礼拝堂建設に影響を与えたと考えられるサン=ジル・ド・モントワール礼拝堂を紹介する。フレスコ画の見学が目的だったと思われるフジタは多くの写真を撮影し、礼拝堂の佇まいも大変気に入って「前庭でピクニックをした」と当日の日記に記している。田淵は、暑い日差しの中、路地の奥にある小さな入り口に向かうフジタ夫妻の後姿を写真に撮っている。 サン=ジル・ド・モントワール礼拝堂 オルレアンの西方 110 ㎞、ブロワの約 40km 北西に位置するモントワール・シュル・ル・ロワールの街はずれ、築地の奥に聖ジルに捧げられた礼拝堂がひっそりと残る。アプシス外壁の屋根の下には、ロマネスク聖堂によく見られる「二股の人魚」「人面」「クマ」等の奇怪な持ち送り彫刻が見られる【写真1】。 創建は11世紀に遡る修道院付属礼拝堂で、すぐ近くの丘の上には中世領主の古城遺跡が見える【写真 2】。18 世紀末のフランス革命時に身廊が破壊され、天井も抜け半ば壊れた廃寺である。また、脇を流れるル・ロワール川(...